お問い合わせ

中堅・中小企業の改革物語

小売業B社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~

  • 業務改革・システム化
  • 中堅・中小企業の改革物語

横川 省三

chusyo_4_top.jpg

成功している企業の戦略

 成功している企業には、3つのパターンがあるといわれている。

①いつも先進的な商品(製品やサービス)を提供する
②いつも安い商品を素早く大量に提供する
③いつも気が利いた商品を提供する


 ①の商品が先進的な企業といえば、例としてアップルやグーグルなどがある。かつては何億円もしたコンピューター技術を、誰もが手軽に買えて、役立てることができる商品として作り提供している。

 また、②の早くて安いと言えば、ハンバーガーショップなどがある。例えば、マクドナルドは世界の産地から最も安い材料を持ち込み、標準化した店舗と教育プログラムで、均一で安い商品を提供する。

 どちらも相当の技術や設備が要求されることはいうまでもない。

中小企業の戦い方とは

 では、中小企業ならではの生きる道として、③の気が利いた商品を提供する会社になる、ということを考えてみよう。これは、相手にする顧客像を決めて、該当するお客さんのことをよく知り、徹底的に対応することで、大企業にも負けない商売をするというやり方である。

 たとえば、一見さんお断りの料亭は、リピーターのお客さんのことをよく記憶し、お客さんの好みや、接待の目的などから、あうんの呼吸でサービスし、商品を選択する。「いつものでね」「きょうは大事なお客さまなんだ」と言えば、全ての段取りをしてくれるこのありがたさが、「気が利いている」姿である。これは実務担当者と経営者が同一、あるいは極めて近いが故の芸当である。大企業には、まねしたくてもまねのできない経営手法といえるだろう。

 しかし、それを、商売として作り上げ、継続するためには、単に経営者が孤軍奮闘すればよいということではなく、それなりの「着眼点」と「仕組み」が要求される。

ネットショップで、初年度に億単位の売り上げを獲得した創業社長の着眼

 ここで、とある小売業B社について紹介をしよう。B社は、青果・海産物のネットショップを創業し、初年度で億単位の売り上げを獲得した。

 創業社長は、大学卒業後、地域スーパーの青果部門でバイヤーとして一から売り場づくりをしていた。地域スーパーは競争が激しく、成長は頭打ちで、青果物の販売においては、安値売り中心のチラシ、POPで販促するのが常套手段だった。

 店頭でお客さんに「この商品は産地が北海道の帯広で、先週獲れたものを即加工したもの。うまみが出てくる今が、一番おいしいんですよ。調理法は・・・」と説明すれば、しっかり売れる。だからこそ、POPに商品の特長を詳しく書きたいのだが、書き込むスペースも少なく、また作成やメンテナンスが大変、という経験もした。

 そうした中で、ネット販売の時代がやってきた。かつての体験を思い出し、「生鮮品であっても商品の特長をしっかり説明できれば、食品にこだわりを持った顧客に対してもネット販売は可能である」と思い、そのビジネス開発を密かに考えていた。

 そこで、地域スーパーを退職し、まずは、お取り寄せ専門のネット販売会社に入社した。

産直品をネット販売する仕組みを作り、広告で顧客を獲得

 彼は、このネット販売会社で、産地開発や市場開発のノウハウを得た後、独立。新たに「産地・市場直送」を売りにし、市場の商品をネットで販売するB社を起業した。

 B社ではネット販売の特徴を生かし、青果物の情報をタイムリーかつ豊富に提供できる仕組みづくりに注力した。また、ネット販売は、産地や市場との関係や、業務ノウハウがしっかりあれば、設備や資金はそれほどいらないことも魅力だった。

 社長は産地直送にふさわしい産地・商品を求めて市場や農協を訪問し、ネット販売の協力を依頼し、品揃えを確保した。また、事務所は東京と北海道に置き、北海道事務所は産地開発に注力してもらった。

 一方、ネット上のお店は、一般的なポータルサイト、ネット販売サイトに出店した。ネット販売の立ち上げで最も重要なことは「顧客をどのように確保するか」であると考え、Web上に一定期間、集中的に広告を投入した。また、サイトには、産地の情報、青果物がどう作られているか、ランキング、顧客の感想をきめ細かく掲載し、新たな顧客を生み出す工夫をした。

 その結果、事業開始半年で、基盤となる顧客を獲得し、産地から安定的に商品を獲得する販売力を作り上げた。

 とくに、この過程でのポイントは、
・自ら産地を開発し、生産者・作り方の詳細まで知り尽くし、ネットでの説明情報をしっかりしたものにした
・初期に集中的な広告で、商売に必要な顧客を固めた
・産地・市場などのプロとの関係を築き、生産・流通体制を構築した

という点にある。

 このB社の創業社長は、ターゲット顧客を産直品へのこだわり消費者と見据え、そこに対応する商売の方式を考え抜き、無理の無い体制を作ることで、新たなビジネスを生み出したのである。

※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です

コラムトップ